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旅に出ると、思いがけないものに出会います。
昨年帰省した私は、大好きだったお店と布にもう一度出会い、懐かしい自分を再発見したのでした。
いつもは行かないお店に行きたくなった
何も予定がない日の午後、何かおやつを買いに行こうと思い立ち車でお菓子屋さんに行ったんです。
そのあたりは新しい幹線道路ができ、商店街のお店が何件か移転したりして、お買い物に便利なエリアになりつつありました。
ふと見覚えのある看板を見た気がしてよくよく見ると、お菓子屋さんの近くに、商店街から生地屋さんが移転したという看板があるではないですか!
昔よくお店の前を通ったな、ショーウインドーの生地を眺めて楽しんでたっけなぁーと急に懐かしくなり、ちょっと行ってみよう、と裏の路地に車を進めました。
お店はすぐに見つかりました。中に入ってみると、明るい窓際の棚に生地が積まれています。以前のお店とは違う雰囲気ですが、布のセレクトが昔のお店を思い出させてくれます。
いらっしゃーいと出てきたおばさんは、私を見るなり「あらーあなた!懐かしいわねぇー」と声をかけてきたのです。
どんだけ布が好きだったんだよ、自分!!
おばさんの反応があまりにも予想外でびっくりした私はボーゼンとしていたのですが、おばさんは構わず話し続けます。
「あなたよくお店に来て、生地をじーっと眺めてたわよねぇ。」
またまた想定外の言葉です。わたし、ショーウインドーを外から眺めていただけじゃなくて、お店に入ってたんだ(汗)
「そ、そうでしたか?」
「そうよー。よぉく覚えてるわよ。もうお店はたたんでこの場所に移ってきたんだけど、時々生地がほしい、という人がいるからね、一応置いてあるのよ。もう商売はやめたんだけどね。」「。。。」
まさか、こんな場所で昔の自分に出会うなんて思ってもみませんでした。しかも、このお店は婦人服の服地を扱うお店で、手芸店ではありません。
本当に布だけを、しかもスーツやドレスなど、大人の洋服を作るための生地だけを売っているお店でした。
布を見ていると幸せだった
よくよく思い出してみると。
スカートを作って以来布が気になって仕方なかったわたしは、小学校の高学年になると生地屋さんの前を通って手芸店に通っていました。
親からは、布を買うからといってお金がもらえるわけではありませんでしたから、月に数百円のお小遣いを一生懸命貯めて布や手芸材料を買うのです。
小学生のうちは、生地屋さんの前は素通りでした。お母さんが着る服の布の店、と思っていた気がします。
中学生になるころには、当時のティーン向けファッション誌を見て、自分で洋服作りたい!と思い、実際にチャレンジしました。
その生地は、この生地屋さんで買ったものでした(その時のことは、また別の機会に書こうと思います)。
高校生になると、装苑という雑誌を読むようになりました。
今は、ファッションデザイナーを志す人なら絶対読んでいるちょっとエッジの効いたファッション誌に生まれ変わっていますが、当時の装苑は、洋服を実際に作るテクニックの部分に重点がおかれた、実用的な誌面も多い雑誌でした。
我が家の場合、親が洋服を買い与えてくれるのは、本当に必要な時、親の好みに合ったものだけでした。でも親の好きなものと私が着たいものは違います。
グンゼの肌着を愛用する両親にとって、流行など無用のもの。「他に洋服が欲しければ、小遣いで買え。」と言われ、実際にそうしていましたから、自分で流行の服を作れたらなぁーといつも考えていて、憧れの雑誌として装苑を読んでいました。
やりくりすれば生地が買えるだけのおこづかいはもらえていたので、生地屋さんに実際に入って、あれこれ眺めていたのだと思います。
布を見ているだけで、あんな服が作れそう、この柄はいいけどちょっと厚地かな、あのシルエットは出ないかな、とかいくらでも妄想が膨らみます。
何時間でもそこにいられそうな気分で、実際にかなりの時間をすごしていたのかもしれません。
幸せだった自分を再発見する、という幸せ
私が幸せを感じていた時間を、思いがけず立ち寄った生地屋さんにで思い出させてもらい、とてもあたたかな気持ちになって実家に戻りました。
その時にどんなお菓子を買って帰ったのかは忘れてしまったのに、布屋さんでのおばさんとの会話は、今でも鮮やかによみがえります。
一生懸命お小遣いを貯めて布を買っていた自分が、自分の思い出の中だけでなく、ほかの人の記憶の中にも存在していたのです。とても不思議な気持ちです。
それがかえって、自分がどれだけ布が好きで、どれだけその気持ちに幸せをもらっていたのかを思い出すことになりました。
昔の自分が「次はこの布を買ってこれ作ろう」と思ってワクワクしていたように、
「明日はこれをやろう、それが終わったらこれをやろう」と毎日ワクワクしてすごせたらいいのにな、どうやったらそうなれるのかな、と時々考えるようになりました。
以前の私は「ワクワクしたい」という気持ちさえも忘れてしまっていたので、それを自覚できただけでも、私にとっては大きな意味のある一歩です。
昨年の実家への帰省は、幸せだった自分を再発見して、幸せになりたい自分に再び出会った大切な旅になりました。
今日も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。